隠れ異邦人の休憩室 4 ルーチン 2
佐々木菜々子
ルーチン2
最初に異邦人として就職したときは、おかしいな、奇妙だなと思っていたことに徐々に慣らされていき、やがて、それを自分も当然と思い込むようになり、いつのまにか、それに従わない人を説教している。そういうことは、よくあることです。
それぞれの組織に滑稽な習慣があって、それはこのサイトの「日本企業ミステリー」にもあるように、責任の所在を曖昧にするスタンプラリーだったり、会長のために特別に設営されたエレベーターであったり、順番に帰る暗黙のルールであったりするわけです。ルーチンの環境が狭くなればなるほど、そのこだわりかたは緻密性を帯びてきて、挙句の果てはホチキスを止める位置だの電話のメモをとる順番だの、そんなところにまで発展していきます。それは、昔、家という空間が主たる生活の場であり、その狭い行動範囲の中で嫁と姑がずっと顔をつき合わせて仕事をしていると、限りなく細かいところまで相手に干渉し始めるのに似ているかもしれません。
一番怖いのは、そうやって、限られた空間からポイントに至るまで視野の範囲が徐々に狭まり一点に集中されていけばいくほど、外の世界は内の世界によって侵食されていき、外側の世界が視野から完全に末梢され、内側の世界でのみ完結されてしまう。そして、自分自身も内側の世界によって人間改造されてしまうということなのです。闇の中だけで生きている動物が、闇の中にのみ適応できる生体に変容してしまうようなものです。
私たちが立っているこの場所は、長い時間の流れの中のほんの一点にすぎない。閉ざされた部屋の扉を開け、外の世界に出たら、そこには果てしない空間が広がっている。今住んでいる世界は、大海のなかに投げられた小さな小石のようなものでしかありません。この世界には、多くの人々が生きていて、その人たちひとりひとりはみんな違う顔を持っているように、生き方も考え方もみんな違うのです。そして、あなたもこの世でたった一人のあなたでしかなく、誰にも分け入ることのできない、深い内面世界と可能性を持っているのです。そのことを知ると、そういう外側の世界や多様な価値観から自らを遮断し、狭い世界で悶々としているのが、なんだか可笑しくもあり、もったいなくも思えてくる。
会社の片隅の小さな休憩室で煙草を吸いながら、隠れ異邦人は、そんなことを考えるのでした。

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