隠れ異邦人の休憩室 2 外国人
佐々木菜々子
外国人
隠れ異邦人はこの国で働いている外国人と仲がよい。外国人には友達がほとんどいない。彼らと友達になるのは、自分のことを外人だと思っている人々だけだ。(というわけで、隠れ異邦人は外国人の数少ない友達なのだ。)
外国人は、毎日アパートと工場を往復するだけの生活をしている。工場の仕事はラインでの重労働。でも、彼はずっとここにいるわけではない。三年くらい働いて、まとまったお金ができたら国へ帰り、家を建て商売をしたいと思っている。
隠れ異邦人も、今の会社に定住するつもりがないという意味では、外国人のようなものだ。今はここで働いているが、いつか別の本当にやりたいことをやりたいと思っている。もう、人の下で命令されて働くのはいやだ。自分で起業したい。
「それなら「いつか」ではなく「今」やればいいじゃないか」と外国人は言った。「なぜ君は、一番やりたいことを今、やらないのか」と外国人が訊いた。
「怖いのかな。」
「なにが怖いの?」
「冒険が。2番目3番目なら一応安全圏だからな。それに、ぼくは人がつくったジェットコースターになら乗れるけど、自分がつくったジェットコースターには怖くて乗れないんだ。会社勤めなら、その点、人のつくったジェットコースターに乗っていればいいんだもんな。」
「要するに、自信がないってことか。」
「そうだな。でも、いつも、早く降りて自分のジェットコースターに乗りたいとは思っているんだ。だけどこうして、人のジェットコースターに乗っているうちに、そっちが気楽にも思えてきて、なかなか降りられないっていうのもあるかなあ。」
「ぼくは違うね。ぼくは金がないから、しかたなく今は出稼ぎで働いているけど、金が貯まればきっぱりと国に帰って、むこうで本当に自分のやりたいことをやるつもりだ。」
5年後、外国人はまだ国に帰らず留まっていた。
「いつまでここにいるつもりだい。」
「わからない。」
「もう、金は貯まったんだろう?」
「どこまで貯めれば貯まったと言えるのか、わからなくなってきた。」
「国に帰って、やりたいことをやるんじゃなかったのか。」
「うーん。」
「何を躊躇してるんだ?今の生活でそんなに捨てられないものがあるの?」
「ルーチンかな。毎日、同じ事が繰り返されなくなることが、怖いんだ。」

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